PEEKって何? - スーパーエンプラ概論(パート2)

ジョン・グラスミーダー
ビクトレックス社チーフ・サイエンティスト
プラスチック業界ではPEEKは世界最高峰の性能を誇る材料として広く認知されています。しかし自動車、航空宇宙、石油およびガス、医療機器の分野では長らく主要な材料は金属でした。近年のトレンドにより、PEEKポリマーは、その常識を急速に変えつつあります。

そもそもPEEKとは?

PEEKまたはポリエーテルエーテルケトンは、「芳香族ポリケトン」(より正確には「ポリアリールエーテルケトン」またはPAEK)と呼ばれるポリマー群に属します。PAEK類は以下に見られようにアリル基、エーテル基そしてケトン基から構成されています:

structure

In 1978 ICI filed their patent on PEEK which was first commercialised as Victrex PEEK polymer in 1981

PAEKの研究開発は1960年代に始まりましたが、1978年にICI(Imperial Chemical Industries)がPEEKの特許を取得したことで世に知られることになり、1981年になって「VICTREX PEEKポリマー」として商品化されました。

芳香族は、化学の世界では環構造(上記のアリール基など)を含む、またはそれから構成される分子のことを指します。芳香族に属するトルエンやナフタレンは、その名の通り独特の臭いがありますがPEEKは、ほとんどの熱可塑性ポリマーと同様、通常条件下では無臭です。PEEKは概ね直鎖状の半結晶性ポリマーで、下図のとおりエーテル(Ether)・エーテル(Ether)・ケトン(Ketone)が連結してできています:

上記の括弧で示されている“E-E-K”がいくつも連結して(平均200 – 300個)ひとつののPEEKポリマーチェーンができます。Pは、“多く”の意味を持つギリシャ語の「ポリ」に由来、PEEKは“EEK”がたくさん集まってできていることがその名からも分かります。アリール基とケトン基はかなり硬く、剛性 - 高い融点と機械強度の両立 – をもたらします。エーテル基は、靭性のためにある程度の柔軟性をもたらし、アリール基とケトン基は化学的に非常に安定した構造であるため化学的攻撃に対する耐性をもたらします。E-E-Kが連続した構造はPEEKが部分的に結晶化することを意味し、結晶化度は摩耗、クリープ、疲労、耐薬品性の組み合わせを提供します。これについては後で詳しく説明します。

PEEKポリマーは、世界で最も高性能な熱可塑性ポリマーの1つとして知られています。金属と比較するとPEEKは非常に軽量で、成形が容易、耐腐食性があり、高い比強度(単位重量あたりの強度)があります。

用途に合わせたポリマー設計

PEEKポリマーは、鎖の長さ(または分子量)が制御されてつくられます。長い鎖(高分子量)を備えたPEEKは、短いものよりも硬く、耐衝撃性が高くなります。ただし、高分子量ポリマーは溶けた状態では非常に粘性が高くなり、金型の細部まで行き届かない場合があります。逆に短い鎖(低分子量)のPEEKは耐衝撃性は劣りますが、溶けた状態の流動性がはるかに高いため、小さく複雑な部品が容易に製作できます

260°C
高い耐熱性 VICTREX PEEKポリマーの連続使用温度は260°C(500°F)です。

オールラウンド・プレイヤーとしての特性

PEEKの魅力は、多くの特性を高次元で併せ持っているオールラウンド・プレイヤーである点です。以下でそれぞれについて見てみましょう:


  • 高い耐熱性 VICTREX PEEKポリマーの連続使用温度は260°C(500°F)です。これにより、様々な製造工程、石油・ガス分野、自動車のエンジンやトランスミッションなどで見られる高温環境下での使用に適しています。そしてPEEKは、スラストワッシャーやシールリングなど高温下で高速回転する摺動部品でも優れた耐摩耗性を発揮します。

  • 耐薬品性 PEEKは、石油・ガスの掘削現場、製造装置や自動車用途のギアなど、攻撃性の高い薬品に触れる動作環境でも優れた薬品耐性を発揮します。航空機に使用されるジェット燃料、油圧制御、除氷剤、殺虫剤に耐えることができます。そして広範囲の圧力、温度および長時間にわたって薬品耐性を示します。

  • 優れた機械強度 PEEKは、広い温度範囲で優れた強度と剛性を発揮します。 PEEKベースの炭素繊維コンポジットは、金属や合金の何倍もの比強度を持っています。「クリープ」とは、一定の応力が長期にわたって加えられた場合に、材料が永久に変形することを指します。 「疲労」とは、連続する負荷の繰り返しによる材料の脆性破壊を指します。PEEKはその半結晶性構造のおかげで高い耐クリープ性と耐疲労性を兼ね備えており、他の多くのポリマーや一部の金属よりも長期にわたって耐久性を発揮することが示されています。

  • 優れた難燃性 PEEKはほぼ600°Cまで燃焼に耐え、非常に高い温度で燃焼させることができても燃焼を促進することはなく、ほとんど煙を発しません。 PEEKが民間航空機で広く使用されている理由の1つです。

  • 加工性およびリサイクル性 PEEKの分子構造は非常に安定しているため、物性をほとんど維持したまま再溶解して再加工することができます。加工プロセスで発生する端材などの有効活用によって環境負荷の低減にも貢献します。

  • さらにあります!

PEEKは水分を吸収しないため、湿った環境でも劣化しません。ガンマ線や電子線に耐性があり、X線を透過するため医療機器での使用に適しています。電気的にも安定しています。PEEKは多くの場合、電気絶縁体として使用されますが、導電性または静電散逸性になるように改変することもできます。

熱可塑性であるPEEKは、射出、圧縮および押出用の成形機で加工ができます。用途は多岐に渡り、部品の性能向上、軽量化、長寿命化によるシステムコスト低減などはほんの一例です。こう見ると、PEEKが近年急速に金属や合金に代わって採用されているのも頷けます。

著者について

ジョン・グラスミーダー、ビクトレックス社チーフ・サイエンティスト

ジョン・グラスミーダー博士はポリマー業界で25年以上の経験を持ち、研究開発、市場開拓およびビジネス・リーダーシップを歴任、英国とドイツのICI、BASF、ヘキストとシェルの合弁会社を経て2005年にビクトレックスへ入社。2010年からテクニカルディレクターを務め、2016年にチーフ・サイエンティストに就任。

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